きょうの天鐘

●天鐘(2011/03/21掲載)
 『出家とその弟子』の代表作で知られる劇作家倉田百三は大正12(1923)年の関東大震災を経験した。衝撃的な体験だった。後に当時の心理状態を雑誌につづっている▼「もう死ぬようなことはないと思うと、その悦びのために他の事を考えないで、一種の放たれた幸福に似た感じが起きた」。同時代の画家で詩人の竹久夢二は、「喜びでも、悲しみでもない、大きな感動」と書き残した▼2人が抱いた感情について、災害心理学者の広瀬弘忠さんが分析している。「(大災害で)凍結していた心が解凍されていく時の心の動きを表している」(『人はなぜ逃げおくれるのか』集英社新書)▼広瀬さんによると、大災害に遭うと人間の心は極度の緊張から感情が停止して虚脱状態に陥る「衝撃期」を経て、恐怖や不安が未消化のままの「回復期」を迎える。冷静さを取り戻す「復興期」までには相当の時間がかかる▼野田村など東日本大震災の被災地は、まだ衝撃期にあるようだ。行方不明者の捜索が続く。きのう宮城県石巻市で16歳の少年と祖母が救助されたニュースは、今なお被災直後という現実を突き付ける▼回復期にさしかかった被災地もある。八戸市では炊き出しや入浴、洗髪などの支援活動が活発になってきた。「がんばろう八戸」と書いたカードを取り付けた郵便配達の自転車も走っている。復興までは長丁場。物的支援にとどまらず、心の支援にもしっかり気を配りたい。