第31回

◇青森県教育委員会教育長賞
  「エンジェル」を読んで
   八戸市立鮫中1年 相内 美里
 自分は生きていてもいなくてもいい、という主人公「純一」の考え。「幸せ」を「幸せ」と思っていないからだと思います。
 私は、自分の「幸せ」を痛感する出来事を去年の十一月に経験しました。それは父の死です。家族一緒にごはんを食べる時の明るい一時。家族四人で何度も行ったキャンプは父の趣味でした。父は雨や風の悪天候のキャンプが好きでした。私は父に、「どうして雨とかの日のキャンプが好きなの?」と聞いてみました。すると「自然から家族を守るってとこがいいんだよ。」と教えてくれました。私はその時、父の温かさを感じると共に、そんな父から多くのことを学んだのです。やさしさと厳しさ、前向きな姿勢、そして「愛」。すべて教えてくれた父が大好きです。父が生きてそばにいてくれた時には、特に意識もしなかったそれらのささやかな日常が、どんなに「幸せ」だったのか。父の死後、私は痛感したのです。そして、父の死後、残された思い出そのものも「幸せ」にあふれた大切な宝物だと気づかされました。
 純一は殺されて魂になってから、自分の人生の「フラッシュバック」をしています。たしかに父親に金で縁を切られたり、足に障害をもっていたりと大変なことばかりの人生でした。そんな厳しい人生の中にも彼の「幸せ」を私は見つけることができました。一緒にゲームをしたり相談にのってくれる小学校から高校までの長いつき合いの友達。小さいころから大得意だったゲームを生かした職業。本人は見つけることができなかったけれど、「幸せ」は彼の人生にたくさんありました。魂だけになり、人との接触をすることができなくなり、孤独感を感じるようになって初めて「人には接しないように」していた自分の生き方の中にも「友達関係」があったことに気がつきます。魂になってからの純一の目標、「二年分の記憶を思い出す」ことに向かっての第二の人生の方が私は好きです。魂としての大先輩から魂にもできることを教えてもらい、その技をみがいてゆく姿を目にうかべると何事にもあきらめず取り組むことの大切さを教わります。少しずつ、真相が分かるにつれ、純一の行動は魂なのに生きている時よりも生き生きとしています。
 そして一番感動したのがクライマックス。魂になってから思い出せなくなっている最後の二年間の中で純一はある女性に恋をしていたのですが、純一はそのことを覚えていないので魂の姿で同じ女性に恋をします。やがて、彼女は自分の子を妊娠していることが分かります。命が宿っている印の白い光と死期が近い黒い光が分かる純一は彼女のお腹の白い光は他のものより弱いことに気がつきます。そして出産する時には黒に変わっていったとき純一は自分の存在を消し子供を救ったのです。
 私は最後の純一の行動は生きていて幸せを見つけられなかったときでは、きっとできない一番勇気が必要で、一番父親らしい愛に満ちた行動だと思います。「幸せ」を感じられる自分になったからこそ、血のつながった自分の子供を自分を犠牲にして助けられるようになったのだと思います。私が彼だったらこの行動はとれたのでしょうか。もしできたとしても最後の純一のように「何の迷い」もなく救えたかどうか自信がありません。でも今は自信がなくても将来、親になって今と同じことを考えたらきっと純一のような考えを引き出せると思います。私の両親だってきっとそう言うと思うし、私もそんな親になりたいと思っています。今はできないと思っても将来、努力次第で考え方が変わること、親としての誇りを純一は教えてくれました。子供よりもはるかに親は子供のことを思っていてそれだけで親というものは「幸せ」を感じることができるのでしょう。純一は生きている時は見つけられなかった幸せを魂になって見つけ、「人に思ってもらう幸せ」を最後に父親として子供に教えたのだと思います。
 私の家では、父の死後、母と兄と私の三人で暮らしています。父の抜けた寂しさを埋めるためにも、三人の絆は一層深くなったように感じます。兄は母の支えとなり、父のような頼りがいがでました。母は父のことを思い出して泣くこともあるけれど二人の子供を養うため日々、働いてくれています。父は今も私たちのそばでいつも見守ってくれていると思うと力強くなります。私は私の家族の「愛」や「思い」を十分に感じとり少しずつ父のいない生活にも慣れてきました。
 人は「愛」の分「幸せ」を感じる時もあるし、「幸せ」の分「愛」を感じる時もあると思います。どちらの時でも人は笑顔で、今までの苦しさは忘れていると思います。私はそんな、人の「幸せ」を「幸せ」と受け止める心を持っていきたいです。

 【評】読後の感想と自らの生活体験が無理なく組み立てられている。「幸せとは何か」という一貫した視点が感想文をより味わい深いものにしている。
 日常に埋没しがちな「幸せ」の実像が父の生と死によって鮮やかに浮かび上がってくる。
 喜びの言葉 相内 美里
 はじめ入選したと知った時、驚きが隠せませんでした。しかし夕方遅くまで残り、清書したことを考えると、がんばってよかったという満足感でいっぱいです。この小説は主人公の気持ちの変化を楽しんで、読める作品でした。
 指導者=柳澤三枝子
 受賞の知らせを受けてたいへん、喜んでいます。美里さんは、豊かな感性と物事を前向きにしっかりととらえる目をもっています。今回の感想文も、そんな美里さんらしさがでていたと思います。おめでとう。よかったですね。