是川文化 よみがえる縄文

(34) “サバイバル戦略”活発だった?狩猟活動
(2005.02.02)
 とにかく石器類が多い。多彩な漆製品と土器で知られる是川・中居遺跡だが、これも隠れた特徴の一つといえるだろう。四千六点にも上る中居の出土品のうち、半数近くが石器で占められ、土器をはるかに上回っている。その中でも、特に多いのがやじりの石鏃(せきぞく)だ。
■貴重なタンパク源
 縄文晩期には、各地の遺跡でこの石鏃が大量に作られている。そこから当時、既に戦争が行われていた可能性を読み取る研究者もいる。
 だが、緊迫した社会というより、石鏃は祭祀(さいし)も含めた狩猟具、つまり、弓矢による狩りが盛んだったことの反映、と考えた方が自然という気もする。
 狩猟活動も大きなウエートを占めていた。この大量の石器から浮かび上がってくるのは、中居のそんなイメージである。ここに暮らす縄文人は主食とされる堅果類を採集する一方、狩りによってタンパク源である動物質食料を確保していたのだ。
 中居で検出された二カ所の「捨て場」遺構。そこから出土した動物遺体―獣骨―によって、当時、狩りの対象とされた動物の種類が分かる。
 長田沢地区。大量の獣骨が見つかった。「保存状態は悪かったが、その中でも五十三点がシカ、三十七点がイノシシと鑑定された」(八戸市教委・文化課)という。ほかにムササビ、ワシ・タカ、イルカ、クジラなどの骨も出土している。
 遺跡南側にある低湿地。その発掘調査報告書に収められた「D・C区出土の動物遺存体」(分析原稿)には、こう書かれている。
■本命は大型動物
 「動物骨の破片数の出現率は、D区はシカ三十一個(75・6%)、イノシシ二十六個(14・6%)、その他三十個(19・2%)…」
 「その他」はムササビ、ワシ・タカ、ノウサギ、クジラなど。小動物や鳥類、魚類も含まれているが、狩りの本命は大型哺乳(ほにゅう)類のシカやイノシシだったようである。
 イノシシには幼獣が含まれていなかったという。他の遺跡でも、大型動物はオスの成獣が多く、メスや幼獣が見つかるケースは少ない。中居でも、手当たり次第の乱獲ではなく、保護を考えながら狩りをしていたのだろう。
 ところで、中居の出土品に関して、気になるのは石器類と対照的に、骨角器が極端に少ないという点だ。縄文人は動物や魚類の骨などを素材にして、さまざまな生活用品を調達している。
 廃物利用の“達人”―。骨角器で見る限り、そんなイメージを中居に求めるのは難しい。素材の入手は容易なはずなのに、中居出土の骨角器はたった四点。単純比較はできないものの、それが百点も出土している隣接の一王寺遺跡との差は大きい。
 遺跡の個性といってしまえばそれまでだが、漆や土器作りに忙しく、骨角器まで手が回らなかったのか。
■主役と脇役の逆転
 ここで、また三内丸山に登場してもらう。青森県史所収の「主要な哺乳類動物遺体の組成」によると、大半はムササビとノウサギで、小動物が圧倒的に多い。逆に、シカとイノシシは極端に少ない。中居と三内では、主役と脇役が完全に逆転している。
 年代が違うのでこれも単純に比較できないが、津軽方面に大型動物が生息していなかったのか、というとどうもそうではないらしい。
 三内丸山と時代が一部重なる南郷村の畑内遺跡では、シカとイノシシの骨が大量に出土しているからだ。以前、京都大学の河合雅雄名誉教授から、こんな話を聞いた。
 「シカもイノシシも雪に弱い動物。特にシカは雪が前足のひざまでくると、もう歩けなくなる」
 大型動物が雪を敬遠し、津軽から南部方面へ“移動”した可能性もあるようだ。それが結果的に、狩猟形態の違いとなって表れたものか。
 縄文後期末―晩期末まで寒冷化が続いたといわれる。だとすれば堅果類のトチへのこだわりや、石鏃の“増産”方針は、厳しさを増す一方の気象条件下で、中居が食料獲得に向けて、打ち出した“サバイバル戦略”だったといえるのかもしれない。
 (編集委員・江波戸宏)

− 縄 報 録 −

●縄文の道具−石器と骨角器
 狩猟具の石鏃は圧倒的に石製が多いが、中には変わった素材が使われているケースも。三内丸山や階上町の滝端遺跡などでは水晶製のやじりも出土している。
 実際に、これを使って狩りをしたわけではあるまい。狩猟具ではなく、時間と労力をつぎ込んで祭祀用に作られたものだろう。ヒスイを加工しているくらいだから、そのくらいの技術は持ち合わせていたはず。獲物がたくさんとれますように、と願を懸けた祭器だったのかもしれない。
 中居出土品の石器の中には、このやじりのほかに石匙(いしさじ)132点が含まれている。用途は捕獲した獲物を解体処理する際に使われたナイフと考えられており、中居では石鏃に次いで2番目に多い。
 骨角器だが、八戸市の松館遺跡(晩期)では、動物の骨を加工したやじりが出土している。亀ケ岡遺跡では、ハンマーとみられる加工品、装身具・腕輪、釣り針などが見つかっている。素材はシカやイノシシ、鳥類などで、骨や角が多いという。